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私は共通一次で大学に入った世代の人間です。当時、国語の受験対策で一番役立ったのは
このアドバイスでした。「問題出たら文章なんか読むな!選択肢で一番まともなやつを選べ!」 
お陰様で私は無事大学に合格。その後、会社で叩き込まれた文章の書き方は、「5W1Hだけ
判ればいい! 1分で上司が理解できるように書け!」 さて、この状態で蓋をして数年間煮込みます。
すると・・じゃ〜ん! 全く文が書けない人が出来上がります。それが私。  

文章をろくに読まず、書かずに過ごしてしまった私に転機は訪れました。それがディベートです。
ディベートではLogical Thinkingが不可欠。パッパと明快に論理を組み立て、証拠を提示して
ジャッジを説得しなければなりません。 しかしもう一つ、ディベートで学ぶ重要な点があります。
物事を多面的に見る、常に自分とは異なる意見についても考える、ということです。すると必然的に、
じゃあLogicalでない曖昧なものはどうなのよ、という事を考えるようになってきます。  
今の社会では論理的に、明快に物事を解釈し、説明する能力が絶対に必要。世の中はこの力によって
改革され進歩してきました。しかし一方で、人間関係とか、実際にそこに生きる人の幸せを考えた時、
論理だけで納得いかないことが人生にはいっぱいある。曖昧にしておくことで守られるもの、Yes/Noで
単純に割り切れない微妙なものが世の中にはたくさんある。それが私達の人生を豊かにし、
意味を与えてくれる。Logic一本でいいのだ、というのは全くLogicalでない。この事に気がつきました。
そのとき、「大事な事を論理的に伝えられない時、文学はそれを可能にしてくれる。」 という文を
読みました。 この言葉に刺激されてから色々な本を読むようになりました。    

例えば、夏目漱石や宮沢賢治の作品。学生の頃は、「漱石?ああ猫とこころの人ね。」と大した感想も
持ちませんでした。でも今、漱石の最後の作品「明暗」を読むと、よくここまで人間の心理的な駆け引きを
分析できたものだ、と驚いてしまいます。宮沢賢治は「かわいいな。きれいな童話だな。」と思った
程度でした。でも彼が本当に書こうとした事は、深層心理とか生死の境界についてであり、そんな事を
書こうと思ったら、もう論理的な言葉では説明できずに、結果的に詩や童話でしか表現できなかったのだ
という事が今は判ります。  

このように、ディベートから始まり、文学作品にも私は興味を持つようになりました。
じゃあ私もここで一筆、、と思ってもそう簡単に文章は書けません。いま私は書く代わりに、読んだ文章で
印象に残ったものをノートに書き写しています。この作業は単純ですが、目で読むより確実に自分に
残ります。文字を写すときの振動が腕から伝わり、体全体で記憶するような不思議な感覚があります。
書いたノートを後で読み返すのも、また楽しみです。「私はこんな事を大切に思っている人間なんだな。」
と、自分について再発見することもあります。  
文章をいきなり書くのは大変ですよね。でも書き写すだけなら誰でもできます。
印象に残った文章を書き写してゆっくり味わってみませんか。写すのは、書く事の第一歩です。

2009年 YOKO MORI


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